ブリッジ整流回路の欠点について

ブリッジ整流回路の欠点について

皆様から時々、なぜ第二世代電源は音がいいのかと聞かれます。それをメールの文章で説明しても分かりにくいと思いますので「これまでのブリッジ整流回路ではなぜ音が悪いか」を図を使いながら簡単に説明します。なぜなら、第二世代電源はその欠点を克服したものだからです。
なるべく専門的な用語を使わず平易に書いたつもりですが、ご不明な点はメールでも掲示板でも質問して下さい。できる限り回答いたします。

下の図は交流電圧波形の1サイクル分と、それをブリッジ整流回路で整流した際の電圧波形を表したものです。
図の左下にはこの波形を出しているブリッジ整流回路のブロック図も挿入してあります。これらの図を使って説明します。

ブリッジ整流回路では多少のリップルが出ても、コンデンサを入れたりレギュレータを入れたりして電圧だけは ほぼ交流波高値分の高さの直流電圧が出ます。(実際には負荷電流により電圧は低めになりますがここでは省略します)
図中の「コンデンサー電圧」と書いてあるレベルがこの回路が出す直流電圧になります。整流回路を出た直後の波形を青線で「整流後の波形(リップル含む)」として描いています。 整流後の電圧波形を見る限り、多少の脈動はあっても電圧の欠損はありません。ここに全ての間違いがあります。アンプが 「音」を発生させるエネルギーを得るには電圧だけではなく電流が必要です。 ですので、この回路は「負荷Lに対して十分な電流を流す力があるか」という視点で見なければいけません。
これがどういうことか説明する前に、最初にまず条件を整理しておきましょう。

ダイオードには、一般に次のような性質があります。
(a)ダイオードが逆電圧を印加された際に電流を遮断しきるまでには少し時間がかかるが、その時間帯は低インピーダンス状態になるので逆方向電流を流し続ける。 (これは負荷からみれば電源の短絡状態に見えます。)
この時間は標準のダイオードで数百マイクロ秒程度、ショットキーバリヤダイオードで数十マイクロ秒以下ぐらいです。

(b)順方向電圧が逆方向電圧に切り替わる際、ダイオードは遮断開始までの間「電荷蓄積動作(いわゆる準備動作)」を行うがその間ダイオードは低インピーダンス状態になる、またその間は一定の順方向電圧が観測され続ける。

さてこれらの条件を見つつ、グラフを見てください。
この図の最下部に①②③④とインデックスをつけていますが、それぞれ次の状態を示しています。
①ダイオードAからダイオードBへの切り替わり
②ダイオードBによりコンデンサ電圧までチャージされ、コンデンサが放電に切り替わるタイミング
③ダイオードBからダイオードAへの切り替わり
④ダイオードAによりコンデンサ電圧までチャージされ、コンデンサが放電に切り替わるタイミング

①のところでは、まずBのダイオードについては逆方向電圧から順方向電圧への切り替わりのタイミングですが、ダイオード前後の電圧値がゼロですので整流電流は流れません。同時にAのダイオードについては印加電圧が順方向から逆方向に切り替わるタイミングですので上記の(b)+(a)の時間、順電圧を出しつつ低インピーダンス状態になっています。つまり電源は短絡状態になっていて、負荷Lには電流は流れません。
②のところでは、ダイオードBの出口電圧がコンデンサ電圧と等しくなります。つまりダイオードBにかかる電圧がほぼゼロになりますのでダイオードが動作しなくなります。続いてトランス側の電圧が下がっていきますので逆電圧となります。この時もダイオードBが電流を遮断しきるまでは(b)+(a)の時間、低インピーダンスになります。つまりその間電源短絡状態となりますので負荷Lには電流は流れません。

上記のように、ダイオードA/Bの切り替わりと、電圧が順方向から逆方向への切り替わりとなる上の2種類の時間帯には負荷Lには電流を流すことができません。これが最大の問題点です。
①と③、②と④はダイオードAとBが入れ替わるだけで条件は同じです。 つまり電源が短絡する時間帯は交流1サイクルに4回あります。

東日本では毎秒200回、西日本では毎秒240回の電源短絡が起きていることになり、毎秒その回数だけ負荷Lへの電流が停止しています。 そうして音楽信号はこの回数だけ欠損して「途切れ途切れ」になっています。
この現象はブリッジ整流回路が設計されてからずっと見落とされてきた、というか無視されてきました。なぜなら電圧測定だけでは決してこの欠損が見つからないからです。見かけ上「ブリッジ整流器にコンデンサを抱かせれば電源電圧は確保されている」と考えられて来ました。また、ごく短時間の瞬停であればコンデンサでカバーされるはず、という考えもあったと思います。かつての私もそう思ってました。しかし、ダイオードの過渡特性と流れる電流に着目して考えることで、この毎秒200回もの「電源の瞬停」(瞬間停電:短時間電源喪失を表す業界用語)がこれまでの想定以上に深刻な音の劣化を招いていることを思い知りました。

ブリッジ整流回路の後ろにコンデンサを追加しようが、定電圧回路を追加しようが、それら補助回路の電流は全てダイオードの低インピーダンス=「電源の短絡状態」に引っ張られてしまい、負荷側には満足には流れません。トランスからブリッジ整流回路を通して出てくる電流が「途切れ途切れ」になっている以上、「余韻が出ない」「耳障り」というリアリティに欠ける音を従来は聞いていたことになります。

第2世代電源はブリッジ整流回路の本質的で大きな欠点を克服し、同時にトランスの電流供給能力と応答性を最大限に引き出せるように工夫した回路(特許取得)を実現したものです。
これが、次元の違う音を再生できる所以です。

掲示板にも書きましたが、アンプに電流を供給すべきはトランスです。決してコンデンサではありません。


ブリッジ整流回路の出力電圧波形
参考文献:AES発表資料:21世紀のオーディオ電源(Saburo Degawa 2006)
参考文献:室蘭工業大学学術資料アーカイブ:ダイオード論理回路の逆回復過渡現象(Yoshiichi Abe 1965)
文責:PractSoundSytem 岡本
2020/03/09 Pract